毎年11月9日は「119番の日」です。1987年に消防庁が制定したこの日は、消防に対する正しい理解と認識を深め、防災意識を高めることを目的としています。
そしてこの日から1週間(11月9日〜15日)は「秋の全国火災予防運動」期間でもあります。
火災が発生しやすい時季を迎えるにあたり、企業の防災体制を見直す絶好の機会です。
特に見落とされがちなのが「通報訓練」です。
避難訓練や消火訓練は定期的に実施していても、119番通報の訓練を実践的に行っている企業は意外と少ないのが現状です。
しかし、火災発生時の最初の数分間の対応が、その後の被害規模を大きく左右します。そして、その対応の中核となるのが「119番通報」なのです。
通報訓練、実施していますか?
消防法では、防火管理者を選任している建物において消火訓練・避難訓練・通報訓練の実施が義務付けられています。特定用途防火対象物(不特定多数が利用する施設)では年2回以上、非特定用途防火対象物では年1回以上の実施が必要です。
しかし、消防庁が実施した実態調査によれば、通報訓練の実施状況は他の訓練と比べて必ずしも十分とは言えません。調査対象となった医療施設では、消防計画を届け出ている施設のうち、年2回以上通報訓練を実施しているのは病院で64%、有床診療所では34%にとどまっています。
「避難訓練は毎年やっている」
「消火器の使い方は訓練している」
そう答える企業でも、実際に119番通報の模擬訓練を行っているケースは少ないのではないでしょうか。
避難訓練や消火訓練は目に見える動きがあり、参加者も多いため実施しやすい一方、通報訓練は地味で単調に見えるため、書類上の訓練計画には含まれていても、実際には「やったことにする」形骸化が起きやすいのです。
なぜ通報訓練が重要なのか
119番通報は、消防隊・救急隊が現場に向かうための「出発点」です。
通報の内容が不正確だったり、情報が不足していたりすると、消防の初動対応に支障をきたします。
消防庁の報告書では、大規模災害発生時における消防本部の効果的な初動活動について検証されており、「正確な情報収集」が初動活動の成否を左右すると指摘されています。
阪神淡路大震災や東日本大震災などの大規模災害時には、119番通報が殺到し、消防本部の管制指令室が混乱しました。
このような状況下では、一つひとつの通報の質が極めて重要になります。
火災現場では、通報者がパニック状態になり、必要な情報を正確に伝えられないケースがあります。
【119番通報で必要な情報】
- 火災か、救急か
- 場所(住所)
- 建物の名称または近くの目標
- 何が燃えているのか、どういう状況か
- 通報者の氏名と連絡先
これらの情報が迅速かつ正確に伝わるかどうかが、消防隊の到着時間や初期対応の質を左右するのです。

通報が混乱していても、消防士は与えられた情報で活動します。
しかし、通報内容が正確であればあるほど、活動は行いやすく、被害が少なくなる可能性は高くなります。
企業でよくある通報時の問題点
実際の火災や救急事案が発生した際、通報訓練を行っていない企業では以下のような問題が起こりがちです。
1. パニックで必要な情報が伝えられない
火災や救急事案は突然発生します。訓練を受けていない従業員が119番通報を行うと、慌てて何を伝えるべきか分からなくなり、指令員からの質問に答えられないことがあります。
「火事です!早く来てください!」と伝えるだけでは、消防隊は出動できません。
どこで何が起きているのか、具体的な情報が必要です。
2. 誰が通報するのか決まっていない
消防計画には「通報担当者」が定められていても、実際の発生時にその担当者が不在だったり、誰が通報すべきか曖昧だったりするケースがあります。
「誰かが通報しているだろう」という思い込みで、結果的に誰も通報していなかった、という事態は避けなければなりません。
3. 建物の住所や構造を正確に伝えられない
複合ビルやテナント、工場など複雑な建物では、正確な住所や建物名、具体的な発生場所を伝えることが難しい場合があります。
「○○ビルの3階です」と言っても、そのビルに複数の出入口があったり、隣接する建物と一体化していたりすると、消防隊が迷う可能性があります。
4. 通報後の対応が分からない
119番通報は電話をかけて終わりではありません。
通報後も指令員から追加の質問があったり、消防隊が到着するまで電話を切らずに待機するよう指示されたりします。
また、通報と同時に初期消火や避難誘導を開始する必要がありますが、通報担当者がその後の行動を理解していないと、全体の対応が遅れてしまいます。
実践的な通報訓練のポイント
では、どうすれば実践的な通報訓練を実施できるのでしょうか。
以下のポイントを参考にしてください。
1. 通報マニュアルを整備する
119番通報時に伝えるべき情報を一覧にした「通報マニュアル」を作成し、電話の近くや事務所の見やすい場所に掲示しましょう。
【通報マニュアルに記載すべき内容】
- 建物の正確な住所(郵便番号も含む)
- 建物名称、階数、構造
- 最寄りの目標(交差点名、大きな建物など)
- 主要な出入口の位置
- 緊急連絡先(防火管理者、施設責任者など)
緊急時は誰もが慌てます。あらかじめ必要な情報を整理しておくことで、誰でも正確な通報ができるようになります。
2. 誰でも通報できる体制を作る
「通報担当者」を決めることは重要ですが、担当者が不在の場合も想定し、複数の従業員が通報できる体制を整えましょう。
特に夜間や休日、少人数勤務時の対応を明確にしておくことが大切です。
3. 実際に声を出して練習する
通報訓練は「やったことにする」のではなく、実際に声を出して練習することが重要です。
119番通報の模擬訓練では、以下の流れを実践してみましょう。
【通報訓練の基本的な流れ】
- 火災や救急事案の発生を想定する
- 119番に電話をかける(実際には訓練用の内線や携帯電話を使用)
- 指令員役の従業員が質問する
- 通報者役が必要な情報を正確に伝える
- 訓練終了後、伝達内容を振り返る
このとき、通報マニュアルを見ながら練習することで、実際の緊急時にもマニュアルを活用する習慣が身につきます。
4. 予告なし訓練で実践力を高める
避難訓練と同様、通報訓練でも「予告なし訓練」が効果的です。
事前に訓練日時を知らせず、勤務中の従業員に突然火災を想定した通報訓練を実施することで、実際の緊急時に近い状況での対応力を確認できます。
ただし、予告なし訓練を実施する際は、従業員の負担やストレスにも配慮し、訓練の目的と意義を事前に説明しておくことが大切です。
5. 消防訓練と組み合わせる
通報訓練は単独で行うよりも、消火訓練や避難訓練と組み合わせることで、より実践的な訓練になります。
火災発生時の一連の流れ(発見→通報→初期消火→避難誘導)を通して訓練することで、各担当者の役割分担や連携を確認できます。
6. 119番の日を活用する
11月9日の「119番の日」や、秋の全国火災予防運動期間(11月9日〜15日)を活用して、社内で通報訓練を実施しましょう。
総務省消防庁が毎年実施するこの運動期間は、企業の防災意識を高める絶好の機会です。令和6年の秋季全国火災予防運動では、「地震火災対策の推進」と「住宅防火対策の推進」が重点推進項目とされています。
企業においても、この期間を利用して通報訓練を含む総合的な防災訓練を実施することで、従業員の防災意識を高めることができます。
通報訓練の効果を高めるために
通報訓練を形だけのものにしないためには、以下の点に注意しましょう。
訓練後の振り返りを行う
訓練を実施したら、必ず振り返りの時間を設けましょう。
- 必要な情報を正確に伝えられたか
- 通報マニュアルは使いやすかったか
- 通報後の行動は適切だったか
- 改善すべき点はないか
参加者からのフィードバックを集め、次回の訓練に活かすことで、訓練の質が向上します。
定期的に訓練を繰り返す
通報訓練は一度実施すれば終わりではありません。定期的に繰り返すことで、従業員の対応力が定着します。
特に、新入社員が入社したタイミングや、配置転換があった際には、改めて通報訓練を実施することをお勧めします。
まとめ:119番の日を通報訓練見直しの機会に
11月9日の「119番の日」は、企業の通報体制を見直す絶好の機会です。
避難訓練や消火訓練は実施していても、通報訓練が形骸化している企業は少なくありません。しかし、119番通報の質が、消防隊の初動対応を大きく左右します。
【今日から始められること】
- 通報マニュアルを整備する
- 119番通報に必要な情報を社内で共有する
- 秋の火災予防運動期間(11月9日〜15日)に通報訓練を実施する
- 消火訓練・避難訓練と組み合わせた総合訓練を計画する
火災や救急事案は、いつ発生するか分かりません。その時、従業員全員が冷静に119番通報できる体制を整えておくことが、企業の責任です。
「通報は誰かがやるだろう」ではなく、「誰でもできる」体制を作ることが、従業員と企業を守る第一歩です。
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通報訓練を含む総合的な防災訓練の企画・実施をサポートいたします。
- 通報マニュアルの作成支援
- 実践的な通報訓練の指導
- 消火訓練・避難訓練との組み合わせ訓練
- 予告なし訓練の実施サポート
- 訓練後の講評と改善提案
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