社員が知らない避難経路、意味がありません〜防災意識の”形骸化”を防ぐ方法〜

避難訓練を毎年実施しているのに、社員は避難経路を知らない

「年に2回、きちんと避難訓練を実施しています」
そう断言できる企業は少なくありません。
消防法に基づいて計画を立て、所定の日時に全社員を集めて訓練を実施する。
法令上の義務も果たし、記録もきちんと残している。

しかし、ここで一つの疑問が浮かびます。

あなたの会社の社員は、本当に避難経路を把握しているでしょうか?

あるオフィスビルで行われた抜き打ち調査では、約40%の従業員が自分のフロアの非常口の位置を正確に答えられなかったという結果が出ています。
さらに、「実際の避難経路を説明できますか?」という質問には、わずか15%しか正確に答えられませんでした。
避難場所の認知度が65%あるのに対し、避難経路の認知度は著しく低いという調査結果も存在します。

これらのデータが示しているのは、避難訓練が「形骸化」しているという厳しい現実です。
毎年訓練を実施していても、それが実効性を伴っていなければ、いざという時に社員の命を守ることはできません。

目次

訓練実施率は高いのに、なぜ「形骸化」が起きるのか

自主防災組織における総合防災訓練の実施率は67.8%(令和4年度)と、一見すると高い数字を示しています。
しかし、実態を詳しく見ていくと、企業の自衛消防訓練において「定期実施」と「消防計画の届出」を両方とも行っている割合は約60%にとどまっています。
つまり、40%近い企業では、訓練が十分に実施されていない、または届出すら行われていないという状況です。

さらに問題なのは、訓練を実施している企業においても、その内容が実効性を伴っていないケースが多いことです。
東京消防庁の報告書や防災白書でも、「避難訓練の内容の形骸化」が繰り返し指摘されています。

なぜ訓練が形骸化するのか──4つの典型的パターン

企業の避難訓練が形骸化してしまう背景には、いくつかの典型的なパターンがあります。

1. 「年中行事」として処理される訓練

毎年同じ時期に、同じ手順で、同じシナリオ通りに実施される訓練。

参加者は事前に訓練日を知っており、「今日は訓練の日だから」と心の準備をして臨みます。
予定調和の中で粛々と進行し、終了後は「今年も無事に終わった」と安堵する。
こうした訓練では、突然の災害に対応する力は決して身につきません。

2. 「代表者のみ」の訓練

全社員を集めることが難しいという理由で、各部署から代表者だけが参加する訓練。

参加した代表者は避難経路を確認できますが、その情報が他の社員に共有されることはほとんどありません。
結果として、大多数の社員は避難経路を知らないまま日常業務を続けることになります。

消防の現場では「訓練は裏切らない」と言います。しかし、それは「実践的な訓練」をした場合の話です。形だけの訓練は、むしろ「できる」という誤った安心感を与えてしまい、かえって危険なのです。

3. 「シナリオ通り」の避難

火災発生場所、避難経路、集合場所まで、すべてが事前に決められた通りに進行する訓練。
実際の火災では、出火場所によって使える避難経路が変わります。煙の状況、パニック状態の人々、倒れた障害物。
訓練で想定していないさまざまな要素が加わります。
シナリオ通りの訓練だけでは、こうした状況に対応できません。

4. 「防火管理者任せ」の訓練

防火管理者が計画を立て、当日の進行も防火管理者が仕切り、記録も防火管理者が残す。
一般の社員は「言われた通りに動く」だけ。このような訓練では、防火管理者が不在の時に災害が発生したら、誰が指揮を執るのでしょうか?

「逃げ遅れ」が火災死の最大要因──統計が示す厳しい現実

形骸化した避難訓練の最大の問題は、いざという時に本当に避難できないという点です。
そしてこの問題は、統計にも明確に表れています。

総務省消防庁が発表している令和6年版消防白書によれば、火災による死者のうち38.7%が「逃げ遅れ」によるものです。
令和4年版では46.0%という数字も示されています。
つまり、火災で亡くなる方の約4割から5割近くが、適切に避難できなかったことが原因なのです。

この「逃げ遅れ」は、高齢者だけの問題ではありません。
オフィスビルや商業施設においても、避難経路を知らない、避難の判断が遅れる、パニックで冷静に行動できない、といった理由で逃げ遅れるケースは十分に起こりえます。

避難訓練の目的は「避難経路を歩く」ことではない

多くの企業では、避難訓練を「非常階段を使って1階まで降りる」「避難場所に集合する」といった「動作」として捉えています。
しかし、本来の避難訓練の目的は、いざという時に的確な判断と行動ができる力を養うことです。

  • どの経路が使えるか、瞬時に判断できるか
  • 煙の中でも冷静に低い姿勢で進めるか
  • 他の社員を誘導し、助け合って避難できるか
  • 避難の遅れている人がいないか、確認できるか

こうした実践的な能力は、形骸化した訓練では決して身につきません。

消防士として42年間、多くの火災現場を見てきました。「訓練していれば助かったのに」と悔しい思いをしたことは一度や二度ではありません。避難訓練は、社員の命を守る最後の砦なのです。

実効性のある避難訓練に変えるための5つのポイント

では、形骸化した避難訓練を、実効性のあるものに変えるにはどうすればよいのでしょうか。
ここでは、5つの具体的なポイントをご紹介します。

1. 「抜き打ち訓練」を取り入れる

事前に日時を知らせず、突然訓練を実施する。初めは混乱するかもしれませんが、それこそが現実です。
実際の災害は予告なく発生します。抜き打ち訓練によって、社員一人ひとりが「本当に避難経路を知っているか」「パニックにならずに行動できるか」を確認できます。

まずは年に1回だけでも、抜き打ち訓練を導入してみましょう。
本格的な避難訓練が難しい場合は、「今から5分以内に、自分のフロアの非常口を2つ以上確認してください」という簡単な確認から始めるのも有効です。

2. 「複数の避難シナリオ」を想定する

毎回同じ出火場所、同じ避難経路では、変化に対応できません。

  • A階段が使えない場合はどうするか
  • エレベーターホールに煙が充満していたら
  • 出火場所が自分の執務室に近かったら
  • 夜間や休日に少人数しかいない時だったら

こうした複数のシナリオを用意し、訓練ごとに異なる想定で実施することで、「どんな状況でも冷静に判断できる力」が養われます。

3. 「全員参加」を徹底する

代表者だけの訓練では、他の社員は避難経路を知りません。
避難訓練は全社員が参加する必要があります。

もし業務の都合で全員が同時に参加できない場合は、複数回に分けて実施する、部署ごとにローテーションで参加させる、といった工夫が必要です。
「訓練に参加したことがない社員」がいない状態を作ることが重要です。

「忙しいから訓練に参加できない」という声をよく聞きますが、火災は「今は忙しいから待ってください」とは言ってくれません。全員が訓練に参加できる体制を作ることこそが、経営者の責務です。

4. 「振り返り」と「改善」を繰り返す

訓練をやりっぱなしにしていませんか?訓練後に必ず振り返りの時間を設け、以下の点を確認しましょう。

  • うまくいった点: なぜうまくいったのか、要因を分析する
  • うまくいかなかった点: 何が障害になったのか、どう改善するか
  • 気づいた問題点: 避難経路に障害物はなかったか、誘導表示は見やすかったか

そして、次回の訓練ではその改善点を反映させる。このPDCAサイクルを回すことで、訓練の質は着実に向上していきます。

5. 「避難経路の日常的な確認」を習慣化する

訓練だけでなく、日常的に避難経路を意識させる仕組みも重要です。

  • 新入社員研修で避難経路の確認を必須項目にする
  • 月に1回、朝礼で避難経路を確認する時間を設ける
  • 各フロアの目立つ場所に「あなたの最寄りの非常口はこちら」という表示を貼る
  • デスクから非常口までの距離を歩数で把握する

こうした小さな積み重ねが、いざという時の迅速な避難につながります。

「専門家の視点」が形骸化を防ぐ

ここまでさまざまなポイントをお伝えしてきましたが、社内だけで訓練の質を高めるのは簡単ではありません。
なぜなら、「何が問題なのか」「どう改善すればよいのか」を客観的に判断することが難しいからです。

毎年同じメンバーで同じ訓練を繰り返していると、どうしても視点が固定化してしまいます。
「これで十分だろう」という思い込みが生まれ、形骸化が進んでいきます。

実際に災害を経験していない上に、マンネリ化してしまうと形骸化が進み、全くの意味を持たなくなります。
専門家の視点を取り入れることで、訓練の質は劇的に向上します。

実際の火災現場を知り尽くした元消防局長による訓練指導では、以下のような視点から貴社の避難訓練を評価し、改善策を提案します。

  • 本当に全員が避難できる計画になっているか
  • 実際の火災で想定される状況が考慮されているか
  • 避難の障害となる要素が見落とされていないか
  • 社員一人ひとりに避難の意識が根付いているか

形だけの訓練を続けていても、いざという時には役に立ちません。
実効性のある訓練に変えていくためには、専門家の力を借りることも一つの有効な選択肢です。

いざという時に社員の命を守れますか?

避難訓練は、法令上の義務だから実施するのではありません。社員の命を守るために実施するのです。

毎年訓練を実施していても、それが形骸化していたら意味がありません。社員が避難経路を知らなければ、訓練をしていないのと同じです。火災による死者の約4割が「逃げ遅れ」という統計が示すように、適切な避難訓練の有無が生死を分けるのです。

今一度、貴社の避難訓練を見直してみてください。

  • 社員全員が避難経路を把握しているか
  • いざという時に冷静に判断し行動できる訓練になっているか
  • 複数のシナリオを想定した実践的な内容か
  • 訓練の振り返りと改善が行われているか

もし一つでも不安があるなら、それは改善のチャンスです。形骸化した訓練を実効性のあるものに変えることで、本当に社員の命を守れる体制を作りましょう。

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