「あれ?うちの会社って、確か『防火管理者』はいるけど、『防災管理者』っていうのも必要なんだっけ…?」
「防火と防災、名前は似ているけど、具体的に何がどう違うのか、正直よく分からないんだよな…」
企業の経営者の皆様、そして総務や安全管理を担当されている皆様。こんな風に、「防火管理者」と「防災管理者」の違いについて、少し混乱したり、疑問に思ったりしたことはありませんか?
どちらも事業所の安全を守るために大切な役割であることは何となく分かるけれど、その具体的な違いや、自社にどちらが必要なのか(あるいは両方なのか)を正確に把握するのは、意外と難しいものですよね。

元岡山市消防局長、現在は消防法令専門の行政書士をしております東山です。 42年間の消防業務を通じて、私はこの「防火管理」と「防災管理」の両方の制度の運用に深く関わってきました。そして、多くの企業様が、この二つの制度の違いや、自社に必要な対応について悩まれている姿も拝見してきました。
これらの制度は、どちらも消防法に基づいており、事業所の安全体制を築く上で欠かせないものです。
しかし、その目的とする「災害の種類」や、選任が義務付けられる「建物の条件」、そして実際に担う「業務の内容」には、明確な違いがあります。
この違いを正しく理解していないと、
- 気づかないうちに法令違反を犯してしまっている…
- 必要なはずの安全対策が講じられていない…
- いざという時に、誰が何をするのかが曖昧で、適切な対応ができない…
といった、思わぬ事態を招いてしまう可能性も否定できません。
この記事では、
- まず「防火管理者」とは何か、どんな役割で、どんな事業所に必要なのか
- 次に「防災管理者」とは何か、防火管理者とはどう違うのか
- そして、この二つの制度の主な違いをスッキリ整理し、あなたの事業所に何が必要なのかを判断するためのヒント
について、専門用語をできるだけ使わずに、分かりやすく解説していきます。
この記事を最後までお読みいただければ、これまで少し曖昧だった「防火管理者」と「防災管理者」の違いがクリアになり、「うちの会社の場合は、こうすればいいんだ!」と、自信を持って適切な安全体制づくりに取り組むための、確かな知識が身につくはずです。
もう、二つの「カンリシャ」に悩むことはありません!
まず基本!「防火管理者」ってどんな役割? – “火災”から守るスペシャリスト
まずはじめに、多くの事業所でより馴染み深いであろう「防火管理者(ぼうかかんりしゃ)」について見ていきましょう。
この「防火管理者」とは、一体どのような役割を担い、どんな事業所に必要とされるのでしょうか?
「防火管理者」の目的と根拠となる法律
防火管理者の最も大切な使命は、その漢字が示す通り、「火災」を防ぎ(予防)、万が一火災が発生してしまった場合に、その被害をできる限り小さくする(被害軽減)ことです。
そのために、事業所における火災予防の体制づくりや、従業員への教育・訓練などを計画的に行うリーダー的な存在となります。
この防火管理者制度は、私たちの安全を守るための大切な法律である「消防法」に基づいて定められています。
防火管理者の主な仕事内容 – 事業所の“火の用心”のリーダー
では、具体的に防火管理者はどのような仕事をするのでしょうか?
難しい言葉で書かれていることも多いですが、ここでは主なものをピックアップし、ご紹介します。
防火管理者の主な業務(例)
- 消防計画の作成・届出
- 「もし火事が起きたら、誰が何をするか?」という具体的な行動プラン(消防計画)を作り、消防署に届け出ます。この計画には、火災予防のための日常的な注意点なども盛り込みます。
- 消火、通報及び避難訓練の実施
- 作成した消防計画に基づいて、実際に消火器を使ってみたり、119番通報の練習をしたり、安全な場所へ逃げる練習(避難訓練)を定期的に行います。いわば「火事の時のための防災ドリル」です。
- 消防用設備等の点検・整備の立ち会いなど
- 消火器や火災報知器、スプリンクラーといった消防用設備が、いざという時にちゃんと使えるように、定期的な点検(専門業者に依頼することが多いです)に立ち会ったり、結果を確認したりします。不備があれば改修を促します。
- 火気の使用または取扱いの監督
- 厨房のコンロ、暖房器具、喫煙場所など、火を使う場所や設備が安全に使用されているか、危険な状態になっていないかを日常的に監督し、必要な指示を出します。
- 収容人員の管理
- お店や事務所に、避難可能な人数を超えて人が入りすぎていないかなどを管理します。
- その他、防火管理上必要な業務
- 従業員への防火教育、火災予防のポスター掲示など、事業所の実情に応じた火災予防活動を行います。
これらの業務を通じて、防火管理者は事業所の「火の用心」のリーダーとして、火災から人命と財産を守るための重要な役割を担います。
どんな事業所に「防火管理者」が必要なの? – 選任義務のキホン
「うちの会社にも防火管理者は必要なのかな?」
これは非常に重要なポイントです。消防法では、一定の条件に当てはまる事業所(これを「防火対象物」といいます)の管理権原者(多くは経営者や事業主)に対して、防火管理者の選任を義務付けています。
その条件は、主に建物の「用途」と「規模(収容人員や面積など)」によって細かく定められています。
一概に言うのは難しいのですが、大まかな傾向として、
- 不特定多数の人が利用する施設(例:飲食店、物販店、ホテル、病院、福祉施設など)は、火災が発生した際の避難の難しさなどから、比較的小規模(例えば、収容できる人数が30人以上、場合によっては10人以上)であっても防火管理者の選任が必要となるケースが多くあります。これらは「特定防火対象物」と呼ばれ、特に火災予防の重要性が高いとされています。
- 事務所、工場、倉庫、共同住宅など、主に特定の人が利用する施設(例:非特定防火対象物)の場合は、上記の施設に比べると、防火管理者の選任が必要となる規模の基準が少し大きくなる傾向があります(例えば、収容できる人数が50人以上など)。
しかし、これはあくまで大まかな目安です。
実際には、建物の構造(木造か鉄骨造かなど)、複数のテナントが入っているかどうか、地下階があるかどうかなど、様々な要素が絡み合って選任義務の有無が判断されます。
例えば、同じ面積の事務所であっても、雑居ビルの一部に入っている場合と、独立した建物である場合とでは、条件が変わってくることもあります。



この選任義務の基準は、本当にケースバイケースで、専門家でも詳細な資料を確認しないと即答が難しい場合があるほどです。ですから、『うちはどうなんだろう?』と少しでも疑問に思われたら、自己判断せず、まずは管轄の消防署の予防課に問い合わせて確認するか、私たちのような消防法令に詳しい専門家にご相談いただくのが最も確実で安心な方法です。
特に、これから新しいお店や事務所を始められる方、あるいは移転や増改築を計画されている方は、この防火管理者の選任義務が発生するかどうかを、計画の初期段階で必ず確認しておくことが非常に重要です。
防火管理者の講習は日程が決まっているので、後で気づいて選任できないなんてことも起こりかねません。
どうすれば「防火管理者」になれるの? – 資格取得の道のり
防火管理者に選任されるためには、原則として、定められた「防火管理講習」を受講し、その課程を修了して資格を取得する必要があります。
この講習は、消防法令に関する専門的な知識や、防火管理業務を適切に行うための技能を習得することを目的としています。
講習の実施機関
防火管理講習は、都道府県知事や、消防本部及び消防署を置かない市町村長、あるいは総務大臣の登録を受けた法人(例えば、一般財団法人日本防火・防災協会など)によって実施されています。
お住まいの地域や事業所の所在地によって、講習の申込先や実施団体が異なりますので、まずは管轄の消防署や、各都道府県の消防担当課、あるいは日本防火・防災協会のウェブサイトなどで最新の情報をご確認ください。
講習の種類と対象
防火管理講習には、「甲種防火管理講習」と「乙種防火管理講習」の2種類があります。
- 甲種防火管理講習は、比較的大規模な事業所や、不特定多数の人が利用し火災リスクが高いとされる事業所(例:一定規模以上の飲食店、物品販売店、ホテル、病院、福祉施設、事務所、工場など)の防火管理者を対象としています。
より広範で専門的な知識を学びます。(通常、2日間程度の講習です) - 乙種防火管理講習は、比較的小規模な事業所の防火管理者を対象としています。(通常、1日間程度の講習です)
どちらの講習が必要になるかは、事業所の用途、規模(延床面積や収容人員)、構造などによって細かく定められていますので、これも事前に消防署等にご確認いただくことが重要です。
講習の主な内容
講習では、防火管理の意義と制度、消防関連法令の基礎知識、火災の基礎知識(燃焼の仕組み、消火の方法など)、火災予防のための具体的な対策、消防計画の作成方法、避難訓練や初期消火訓練の実施要領など、防火管理業務を遂行するために不可欠な知識や技能を学びます。
再講習について(甲種防火管理者対象)
特定の条件に該当する事業所(例えば、不特定多数の人が利用する大規模な特定防火対象物など)で選任されている甲種防火管理者の方には、一定期間ごと(おおむね5年ごと、初回は選任から1年以内など条件あり)に「甲種防火管理再講習」の受講が義務付けられている場合があります。
これは、消防法令の改正や新たな火災予防に関する情報に対応し、常に最新の知識を維持するために非常に重要です。



防火管理者としての資格を取得し、事業所で選任された後は、その旨を速やかに管轄の消防署に「防火管理者選任(解任)届出書」を提出する必要があります。
この届出書の作成や提出手続きについても、私たち行政書士が専門的な知識に基づいてサポートさせていただくことが可能です。
もう一方の「防災管理者」って何をする人? – “地震などの大規模災害”にも備える
さて、「防火管理者」についてはご理解いただけたかと思います。
次にご紹介するのは、名前がよく似ているもう一つの重要な役割、「防災管理者(ぼうさいかんりしゃ)」です。
「防火管理者がいれば、防災管理者はいらないの?」
「うちの会社にも、この防災管理者って必要なんだろうか?」
そんな疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
「防火管理者」が主に“火災”への備えを担当するのに対し、「防災管理者」は、地震や津波、あるいは大規模な事故といった、“火災以外の災害”(これらをまとめて「震災等」と呼ぶことがあります)による被害を軽減するための専門家です。
「防災管理者」の目的と根拠となる法律
防災管理者の最も大切な使命は、地震、津波、毒性物質の発散を伴うような大規模事故など、火災以外の様々な災害が発生した場合に、その事業所にいる人々の安全を確保し、被害をできる限り小さくすることです。
そのために、避難誘導体制の確立や、災害発生時の応急措置、そして「自衛消防組織」という、災害時に自分たちで初期対応を行うための組織の運営などを担います。
この防災管理者制度も、「防火管理者」と同様に「消防法」に基づいて定められています。
特に、東日本大震災の教訓などを踏まえ、大規模な事業所における自主的な防災体制の強化を目的として、より重要性が高まっています。
防災管理者の主な仕事内容 – “もしも”の災害への備えのリーダー
では、具体的に防災管理者はどのような仕事をするのでしょうか?
防火管理者の仕事と重なる部分もありますが、対象とする災害が異なるため、特有の業務も含まれます。
防災管理者の主な業務(例)
- 防災管理に係る消防計画の作成・届出
- 地震などの大規模災害が発生した際の、従業員の避難方法、情報の収集・伝達方法、負傷者の救護、そして「自衛消防組織」の活動内容などを定めた具体的な行動プラン(防災管理に係る消防計画)を作り、消防署に届け出ます。
- 避難訓練の実施(地震等を想定)
- 作成した計画に基づき、地震発生を想定した避難訓練や、津波からの避難(該当地域の場合)、あるいは多数の負傷者が発生した場合の救護訓練などを定期的に行います。
- 防災管理上必要な構造・設備の点検・整備
- 建物自体の耐震性や、家具・什器の転倒防止措置、窓ガラスの飛散防止対策、非常用電源や通信設備の確保状況などを点検し、必要に応じて整備を促します。
- 自衛消防組織の統括と運営(該当する場合)
- 防災管理者を選任すべき事業所では、多くの場合「自衛消防組織」の設置が義務付けられています。防災管理者は、この組織のリーダーとして、編成や装備の維持管理、訓練の指揮などを行います。
- その他、防災管理上必要な業務
- 従業員への防災教育、防災マニュアルの整備、備蓄品の管理、地域住民との連携(可能な範囲で)など、事業所の実情に応じた防災活動を行います。
これらの業務を通じて、防災管理者は、火災以外の様々な災害から事業所と従業員を守るための、非常に重要な役割を担います。
どんな事業所に「防災管理者」が必要? – 大規模・高層がキーワード
「防火管理者」の選任義務が、比較的多くの事業所に当てはまるのに対し、「防災管理者」の選任が義務付けられるのは、より大規模な建物や、高層の建物、あるいは地下街など、災害が発生した場合に甚大な被害が想定される特定の事業所に限られています。
具体的な基準は非常に複雑ですが、主な対象となるのは、
- 一定規模以上の大規模な店舗、事務所、ホテル、病院など。 (例:共同住宅等以外の用途で、階数が11階以上かつ延べ面積1万㎡以上、または階数が5~10階で延べ面積2万㎡以上、階数が4階以下で延べ面積5万㎡以上など)
- 地下街。 (例:延べ面積1千㎡以上など)
といった、不特定多数の人が利用し、かつ避難が困難になる可能性が高い大規模な施設が中心です。
また、原則として、その建物全体の管理について単一の権原(管理する権利や責任)を持つ者がいる場合に選任義務が生じます。 (例えば、一つの会社がビル全体を所有・管理している場合などです。複数のテナントがそれぞれ独立して管理している場合は、選任義務の考え方が異なります。)



防災管理者の選任義務は、防火管理者に比べて対象となる事業所が限定的です。しかし、その分、選任が義務付けられる事業所は、災害発生時の社会的影響が非常に大きいということを意味しています。
ですから、もし自社が該当する可能性がある場合は、その責任の重さを十分に認識し、適切な対応を取る必要があります。
この基準も非常に細かく、専門的な判断が必要です。『うちは高層ビルじゃないから関係ない』と安易に判断せず、少しでも該当するかもしれないと思われたら、必ず消防署や専門家にご確認ください。
どうすれば「防災管理者」になれる? – 資格取得の道のり
防災管理者に選任されるためには、原則として、「防災管理講習」を受講し、その課程を修了して資格を取得する必要があります。
この講習も、防火管理講習と同様に、都道府県知事や登録講習機関などが実施しています。
- 講習の対象者と内容
防災管理講習は、防災管理者として選任される予定の方を対象としています。
講習では、防災管理の意義と制度、地震やその他の災害に関する基礎知識、防災管理に係る消防計画の作成方法、自衛消防組織の運営、避難誘導や応急救護の方法など、防災管理業務に必要な専門知識や技能を学びます。(通常、1日間程度の講習です) - 資格要件の特例
一定の資格や、防災に関する実務経験を持つ者は、防災管理講習を受講しなくても防災管理者として選任できる場合があります。この特例に該当するかどうかも、事前に消防署等にご確認ください。 - 再講習について
防火管理講習と同様に、防災管理者にも、一定の条件を満たす場合には再講習の受講が義務付けられていることがあります。



防災管理者を選任した場合も、その旨を消防署に届け出る必要があります。
この「防災管理者選任(解任)届出書」の作成・提出についても、私たち行政書士がサポートできます。
スッキリ整理!「防火管理者」と「防災管理者」の主な違いと比較
ここまで、「防火管理者」と「防災管理者」それぞれについて、その役割や仕事内容、どんな事業所に必要かを見てきました。 「なんとなく違いは分かってきたけど、もっとスッキリと整理したい!」 そう思われている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
このセクションでは、この二つの「カンリシャ」の主な違いを、比較表を使いながら分かりやすく整理します。 そして、「うちの会社は、結局どちらを選任すればいいの?」という疑問にもお答えしていきます。
一目でわかる!「防火管理者」と「防災管理者」の比較
以下の表は、防火管理者と防災管理者の主な特徴を比較しまとめたものです。 それぞれの違いを意識しながらご覧ください。
比較項目 | 防火管理者 | 防災管理者 |
---|---|---|
主な目的 | 火災の予防、火災発生時の被害軽減 | 地震その他の「火災以外の災害」による被害軽減 |
対象とする災害 | 火災 | 地震、津波、大規模事故等(火災を除く) |
根拠となる法律 | 消防法 | 消防法 |
主な仕事内容の例 | ・消防計画の作成(火災対応) ・消火、通報、避難訓練(火災時) ・消防用設備の点検・整備 ・火気使用の監督 | ・防災管理に係る消防計画の作成(地震等対応) ・避難訓練(地震等時) ・防災上必要な構造・設備の点検 ・自衛消防組織の統括 |
選任義務の対象となる主な建物の特徴 | ・不特定多数の人が利用する施設(飲食店、店舗、病院等)で一定規模以上 ・特定の人が利用する施設(事務所、工場等)で一定規模以上 | ・大規模・高層の建築物(大規模店舗、高層オフィスビル、地下街等)で、管理について単一の権原を有するもの |
資格取得の主な方法 | 防火管理講習(甲種・乙種)の修了 | 防災管理講習の修了 (一定の資格・経験による免除規定あり) |
※上記は主な違いを簡略化したものです。
詳細な基準や業務内容は、法令や事業所の状況により異なりますので、必ず管轄の消防署や専門家にご確認ください。
この表を見ていただくと、防火管理者は「火災」に特化した専門家であり、防災管理者は「地震など、火災以外の災害」への備えを専門とするという、対象とする災害の範囲が最も大きな違いであることがお分かりいただけるかと思います。
また、選任が義務付けられる建物の特徴も、防火管理者は比較的広範囲の事業所が対象となるのに対し、防災管理者はより大規模で、災害時に大きな影響が想定される特定の施設に限られている点も重要な違いです。
「どちらか一方だけで良いの?」– 選任義務と兼務について
「では、うちの会社は、防火管理者か防災管理者のどちらか一方を選任すれば良いのだろうか?」 この疑問に対する答えは、「それぞれの選任義務の条件に該当するかどうかで判断する」となります。
- 防火管理者の選任義務がある事業所は、まず防火管理者を選任する必要があります。
- その上で、さらに防災管理者の選任義務の条件にも該当する場合は、防災管理者も選任しなければなりません。
つまり、両方の選任義務に該当する大規模な事業所などでは、防火管理者と防災管理者の両方を選任する必要があるということです。
ただし、ここで一つポイントがあります。
一定の条件を満たす場合には、一人の人が「防火管理者」と「防災管理者」の資格を両方持ち、その職務を兼務することが認められています。 実際、大規模な施設などでは、防火管理者が防災管理者を兼ねているケースも多く見られます。



この兼務の可否や、さらに建物全体で防火・防災管理を統括する『統括防火管理者』や『統括防災管理者』といった制度も絡んでくると、話はさらに複雑になります。
特に複数のテナントが入る大規模なビルなどでは、全体の管理体制をどう構築するかが非常に重要になります。
大切なのは、自社の状況を正確に把握し、法令に基づいて必要な管理者を選任し、その役割を明確にすることです。
そして、選任された管理者が、それぞれの専門性を活かして、実効性のある防火・防災活動を推進できる体制を整えることが求められます。
なぜ二つの制度が必要なのか?その背景にある考え方
「なぜ、こんなに似たような制度が二つもあるのだろう?」と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。
その背景には、「火災」という災害と、「地震や大規模事故」といった災害とでは、その被害の様相や、求められる対応策、そして備えるべきポイントが大きく異なるという現実があります。
- 火災は、比較的限られた範囲から発生し、初期消火や早期の避難が極めて重要となります。日常的な火気管理や消防用設備の維持管理が予防の鍵です。
- 地震などの大規模災害は、広範囲に甚大な被害をもたらし、建物の倒壊やライフラインの寸断、多数の負傷者の発生など、複合的な対応が求められます。事前の耐震化や避難計画、そして地域との連携も重要になります。
このように、異なる種類の災害に対して、それぞれ専門的な知識と計画、そして訓練に基づいた対応体制を構築するために、防火管理と防災管理という二つの制度が設けられているのです。
これは、企業に対して、よりきめ細やかで実効性の高い自主的な安全確保体制の確立を促しているのです。
あなたの事業所に必要なのは?選任義務の確認方法と、困った時の相談先
防火管理者と防災管理者の違いや、それぞれの役割についてご理解いただけたかと思います。
ここからが最も重要なポイントです。
「あなたの事業所には、具体的にどちらの管理者が必要で、どのように対応すれば良いのか」を正確に把握することです。
自己判断で「うちは必要ないだろう」と決めつけてしまうのは非常に危険です。
ここでは、自社の選任義務を確認するための具体的なステップと、もし判断に迷ったり、手続きで困ったりした場合の頼れる相談先についてご案内します。
ステップ1:まずは自社の「基本情報」を正確に把握する
選任義務の有無を判断するためには、まず自社の事業所の基本的な情報を正確に把握する必要があります。 以下の情報を整理してみましょう。
自社の基本情報をチェック!
- 建物の正確な所在地: 住所、ビル名、階数など。
- 建物の主な用途: 飲食店、物販店、事務所、工場、倉庫、病院、福祉施設、共同住宅など。
複数の用途が混在している場合は、それぞれの用途と面積。 - 建物の規模
- 全体の延床面積(建物全体の広さ)
- 自社が使用している部分の床面積
- 建物の階数(地上階、地下階)
- おおよその収容人員
従業員数、顧客数、利用者数など、通常時および最大時にその建物内にいる可能性のある人数。 - 建物の構造: 木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造など。
これらの情報は、消防署に相談する際や、専門家に確認を依頼する際に必ず必要となる基本的なデータです。
正確な情報が分からない場合は、建物の登記簿謄本や賃貸借契約書、建築図面などを確認してみましょう。
ステップ2:管轄の消防署の「予防課」に問い合わせて確認する
自社の基本情報が整理できたら、次は事業所の所在地を管轄する消防署の「予防課」(またはそれに類する防火・防災指導を担当する部署)に直接問い合わせて確認するのが、最も確実な方法の一つです。
消防署への上手な問い合わせ方のコツ:
- 事前に電話でアポイントを取るのがおすすめ: 担当者が不在の場合や、他の業務で多忙な場合もあるため、事前に電話で「防火管理者(または防災管理者)の選任義務について確認したいのですが」と伝え、相談日時を調整しましょう。
- ステップ1で整理した情報を正確に伝える: 建物の所在地、用途、規模、収容人員などを具体的に伝えることで、消防署の担当者も的確な判断がしやすくなります。
- 図面などがあれば持参する: 建物の平面図や配置図などがあれば、より詳細な状況が伝わり、話がスムーズに進みます。
- 質問したいことをメモしておく: 聞き忘れがないように、事前に質問事項をリストアップしておくと良いでしょう。
消防署は、地域の安全を守るための指導・助言を行う機関です。 選任義務の有無や、必要な手続きについて、親切に教えてくれるはずです。
ステップ3:(必要であれば)専門家(行政書士など)に調査・確認・手続きを依頼する
「消防署に聞くのは少し気が引ける…」
「自分たちで調べても、法令の解釈が複雑でよく分からない…」
「必要な手続きが多くて、何から手をつければいいか困っている…」
そんな時には、消防法令に詳しい行政書士などの専門家に相談し、調査・確認や手続きの代行を依頼するという選択肢も非常に有効です。
専門家に相談するメリット
- 正確な法令解釈と的確なアドバイス
複雑な法令や基準を専門家の目で正確に読み解き、あなたの事業所に本当に必要な対応を具体的にアドバイスしてくれます。 - 時間と労力の削減
面倒な情報収集や書類作成、消防署とのやり取りなどを代行してもらうことで、担当者の負担を大幅に軽減し、本業に集中できます。 - 手続きの確実性とスムーズな進行
専門家が法令に基づいて適切に手続きを進めるため、不備による手戻りや遅延のリスクを最小限に抑えられます。 - 精神的な安心感
「これで大丈夫だろうか…」という不安から解放され、安心して事業に取り組むことができます。



防火管理者や防災管理者の選任は、法令で定められた事業主の重要な責務です。
しかし、その基準や手続きが複雑であることもまた事実です。
ただ『よく分からないから、まあいいか』と放置してしまうのが、一番良くありません。
もしご自身での確認や手続きに少しでも不安を感じたら、決して一人で悩まず、遠慮なく消防署や私たちのような専門家にご相談ください。**適切なアドバイスとサポートを受けることが、結果的に時間とコストを節約し、何よりも貴社の安全と信頼を守ることに繋がります。
東山行政書士事務所では、防火管理者・防災管理者の選任義務の確認から、必要な資格取得に関するご案内、そして選任届の作成・提出代行まで、トータルでサポートさせていただいております。
防火管理者や防災管理者の選任は、単に法令上の義務を果たすだけでなく、あなたの事業所の安全体制を構築し、従業員や顧客の命を守るための非常に重要な第一歩です。
正しい知識と適切な対応で、安心できる職場環境を築いていきましょう。
まとめ:防火・防災のキーマンを正しく理解し、事業所の「守りの要」を固めよう!
この記事では、「防火管理者」と「防災管理者」という、事業所の安全を守る上で非常に重要な二つの役割について、その違いや選任のポイント、そして確認方法などをやさしく解説してきました。
最後に、大切なポイントをもう一度お伝えします。
- 防火管理者は、主に「火災」の予防と被害軽減を目的とし、消防計画の作成や避難訓練(火災時)の実施などを担います。
比較的多くの事業所で選任が必要となる可能性があります。 - 防災管理者は、主に地震や大規模事故といった「火災以外の災害」による被害軽減を目的とし、防災管理に係る消防計画の作成や避難訓練(地震等時)、自衛消防組織の統括などを担います。
選任義務は、大規模・高層の特定の事業所に限られます。 - この二つの制度は、対象とする災害や業務内容、選任が必要な建物の特徴などが異なりますが、どちらも企業の自主的な安全確保体制の中核をなす、欠かすことのできない存在です。
- 自社にどちらの管理者が必要か(あるいは両方か)を正確に把握するためには、事業所の基本情報を整理し、管轄の消防署に確認するのが基本です。
そして、判断に迷ったり、手続きに不安があったりする場合には、遠慮なく専門家(行政書士など)に相談することが賢明な選択です。
「名前が似ているから、どちらか一方でいいだろう」
「うちは小規模だから、どちらも関係ないはずだ」
といった自己判断は、思わぬ法令違反や、いざという時の対応の遅れに繋がる可能性があります。
防火管理者や防災管理者を正しく選任し、その方々が活動しやすい環境を整えることは、単に法律上の義務を果たすということだけではありません。
それは、従業員の生命と安全を守り、お客様からの信頼を維持し、そして何よりも大切な事業の継続性を確保するための、経営者としての重要な責任なのです。
日々の業務に追われる中で、これらの対応は時に煩わしく感じられるかもしれません。
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「防火管理者?防災管理者?うちの会社、本当にこれで大丈夫…?」
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